家族信託

高齢者不動産オーナーの場合

一般の場合:父親82歳(長男60歳、長女52歳)

賃貸借契約は法律行為ですから、たとえ家族であっても父親名義の契約の主体者になることはできません。ましてや、意思能力や判断能力がなくなっている状態の父親があたかも判断をしたかのような体裁(代筆)を権限のない家族が行うことには、実は法律上、大きな問題があります。

同様に、今の状態では、将来発生する「大規模修繕」や「建替え」「売却」といった判断を必要とする行為は、原則的に行うことが難しいといえます。

家族信託の場合

不動産はアパートが2棟あって、子どもは男女1人ずつですので、所有者である父親を委託者として、例えばA物件については長男を受託者とします。そして利益(この場合は賃料)を受け取る権利は父親、つまり受益者は父親とします。B物件についても同様に父親を委託者兼受益者とし、長女を受託者とします。そして父親が元気なうちは、長男、長女と一緒にそのアパートを管理していけば問題ないでしょう。

 

もし将来、父親が意思能力を判断能力を失う事態に陥った場合、今度は受託者である子どもたちが明確な財産の管理処分権限をもって、「賃貸借契約書」はもとより、「大規模修繕」や「建替え」、もしくは「売却」といった行為を行うことが可能です。

 

何よりも、意思判断能力を失った父親の「代筆」をして契約行為を行うという「法的に問題のある行為」から解放されます。

 

もちろん、信託契約書には、将来相続が起きた場合、それぞれの物件の承継先をA物件は長男、B物件は長女としておけば、別途遺言で指定したり、相続発生後に遺産分割協議をしなくても、自分の意思どおりに相続させることができます。

一軒家から高齢者施設へ移住の場合

一般の場合:80歳女性(子供1人)

まず、家族信託を使わなかった場合どうなるでしょうか。母親が高齢者施設に入所しても、自宅はそのままにしておくというのはよくあるケースです。しかし、施設入所後に認知症など、意思判断能力が失われる状態になってしまった場合、自宅の管理や処分は大きな問題のひとつとなります。

 

息子が近くにいれば、自宅の管理や修繕に関してはできると思います。ところが、母親の生活費や施設利用料等を捻出する目的で、仮に自宅を売却しとうとした場合、その時点で母親の意思判断能力が喪失していたとすれば、自宅は売るに売れません。

家族信託+αの場合

信託契約により、成年後見制度を使わないと自宅は売却・賃貸などが難しかったのが、息子(受託者)の判断で自由に売却・賃貸できるようになります。

自宅を売ったときの売却代金は受益者である母親のものですので、その管理を息子が行い、母親のために有効に使うことになります。最終的には母親が他界し現金が残ったら、これは相続財産として息子が取得することになります。

 

※成年後見制度を使った場合、お母さんの施設利用料の支払いや生活費の不足など、「売却することの合理的理由」がなければ売却は困難であるといえます。万一、売却に成功しても、売却が終わった後も後見人は辞任できませんので、その後も引き続き成年後見制度は継続します。